「勝利は10%から積み上げる」は囲碁を知らない人にこそ読んでもらいたい本
勝利は10%から積み上げる 張挧【著】
私は大学時代から囲碁をやっている。
囲碁というのはあまり馴染みがない人が多いと思う。
イメージ的にはおじいちゃんがやっているといった感じだろうか?
確かに碁会所(席料を支払い碁を打つ場所)では年齢層が高く、同世代に会ったことはない。
だが、囲碁界全体に目を向ければ若い世代の台頭が著しい。
世界のトップレベルの棋士たちは20歳前後が多い。
さらにはプロ・アマチュア問わず女性の活躍も目覚ましいのである。
●THE・プロフェッショナル
その人物こそ張栩プロである。
私が大学で囲碁を始めたとき、張栩プロはタイトル5冠(当時史上初記録)を保持しており、押しも押されもせぬスーパースターであった。
プロになってタイトルを獲るには才能が必要だと言われる。
残酷だがこれが厳しい勝負の世界なのである。
そんな彼のすごさは才能におごることなく、たゆまぬ努力を続けることにあると思う。
本書ではそのストイックな姿勢を随所に垣間見ることができる。
●弱いことは恥ずかしいこと
彼と対局した棋士達は「迫力がすごい」「厳しいオーラがある」といった言葉を残している。
それだけ勝利への執念が凄まじいということなのだろう。
その矜持はこの言葉から伝わってくる。
プロと名乗る以上、やはり弱いことは恥ずかしいことです。
プロならば強くなければいけない。
徹底的に勝利を目指さなければならない。
こういったプロ意識の高さこそ、トップを走り続けることができる要因なのだ。
●当たり前の徹底
「一流の人は基本に忠実」、「当たり前のことがきちんとできるのが一流」
こういった言葉を一度は聞いたことがないだろうか?
これは紛れもない真理だと思う。
古今問わず様々な人たちがそのような言葉を残している。
特別なことをするために特別なことをするのでなはい、特別なことをするために普段どおりの当たり前のことをする。 byイチロー
当たり前のことが、いつでもどこでもできるのならば、私があなた方の弟子になりましょう。 by千利休
成功の秘訣は平凡な仕事を非凡にやることだ。 byジョン・ロックフェラー
張栩プロも同じようにこれらを重視している。
彼の言葉も紹介しておこう。
あたりまえのことが確実にできる人こそ本当に力がある人です。
地味な仕事の積み重ねが、時間の経過とともに、周りから見てもはっきりそれとわかるほど大きな力となっていくのです。
初心者や素人は派手なことや格好良さそうなことにすぐ飛びつくかもしれない。
だが真の実力者は地味で泥臭いことをコツコツ時間をかけてやってきたのだということが分かる。
●脳の体力を鍛える
囲碁を知らない人からすれば、対局とはどういったイメージだろうか?
これがなかなかしんどい。(でも楽しい)
私の場合だと大会に出場して、朝から夕方くらいまで対局すれば頭がボーっとしてしまう。
だがプロの対局はそれよりはるかにきつい。
棋士によっては1局打つだけで、2~3kg体重が落ちるという人もいるという。
大きなタイトル戦ともなれば持ち時間が8時間で2日かけて打つこともある。
しかもトップ棋士同士だからわずかなミスが命取りとなる。
つまり高い集中力を維持しなければならないのだ。
そこで張栩プロの脳の体力・持久力を鍛える方法がこれまたすごい。
それは「疲れきった脳に最後のひと仕事をさせる訓練」である。
対局を終えて疲労困憊状態でも、帰宅してからインターネットで対局するのだという。
しかも寝てしまうくらい疲れるまで。
思考不可能なくらいの極限状態に追い込まれたとしても、本能で碁を打てるようにするために自分に訓練を課しているのだ。
これはとてもマネできるようなことではない。
だからこそ、トップで活躍していけるのだと思わざるを得ない。