一匹狼になりたくて

ここは孤高のアウトプット場

挫折した人は誰かを救える人だ 「ヒキコモリ漂流記」

ヒキコモリ漂流記 山田ルイ53世【著】

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人生に挫折はつきものである。

程度の差こそあれ、挫折したことのない人なんていないだろう。

 

私も何度も辛い経験をしてきた。

そんな辛い日々が、少し楽になる1冊。

 

●優秀な山田君

「ルネサーンス!」でおなじみの髭男爵

その一人、山田ルイ53世によるエッセイ。

 

意外だったのは、この方かなりの優等生だったということだ。

勉強もできるし、スポーツもできる。

 

なおかつ、人気者でクラスの中心的存在であったそうだ。

しかしながら、狡猾というかいけ好かない部分もある。

 

同級生を「主役」、「脇役」、「エキストラ」などとカテゴライズしていたというのだ。

それでもちろん自分は「主役」だと。

 

つまり、自他共に認める「優秀な山田君」というわけだ。

本人の言葉だと「神童感」なるものがあったそうだ。

 

たしかに彼が優秀であったことは疑いようがない。

しかし、これが後の悲劇を生む。

 

その直前まではすごい。

兵庫では名門とされる「六甲学院中学」に入学している。

 

よくありがちなのは、自分はすごいと思っていても、広い世界に出るとただの凡人だったというパターンだ。

 

ところがこの男は違った。

 

勉強でもトップ10入りを果たし、サッカー部でもレギュラーの座を手に入れた。

まさに負け知らずの優等生だ。

 

神童感なるものをまとって調子に乗ってしまうのも無理はない。

だが終わりは突然やってくる・・・

 

 

●神童から引きこもりへ

神童な日々を満喫していたが、ある日それはやってきた。

中学2年生のときである。

 

通学中に強烈な腹痛に襲われたのだ。

 

本人は前日に食べたカキフライが原因だと推測している。

腹痛と便意が容赦なく彼を攻め立てた。

 

苦しみながら懸命にトイレに到着するも・・・

結果はご想像にお任せしよう。

 

他の学生よりも早く学校に通学していたため、何とか取り繕って授業に臨んだという。

最初のうちは誰も気付いていなかったようだが、次第に「ん?」と異変を察知し始める。

 

直接的に指摘はされなかったものの、完全に自分が特定されているのが分かったらしい。

そして、午後からも授業があるが、誰にも何も告げずにそのまま帰宅してしまった。

 

そこからパタリと学校へは行かなくなったというのだ。

親が厳格だったため何度も忠告されたが、頑なに引きこもりへの道を選んだ。

 

たしかに、思春期の少年にとってはショックだったと思う。

いや、大人でも相当凹む。

 

この事件がきっかけとなり、神童は引きこもりへと変貌を遂げたのだ

 

 

●幸福はいつも世間体の外に

さて、意外過ぎる出来事でエリートから転落してしまったのだが、正直引きこもりまではならなくて良かったのではないだろうか。

 

帰った日は仕方ないにしても、翌日から何食わぬ顔で通学すれば問題なかったはず。

ところが、これを邪魔したのが前述の「神童感」と「優秀な山田君」というレッテルだ。

 

自分は優秀だという自覚があったからこそ、こんな失敗が許せなかったのだろう。

 

俺はすごい。

みんなの人気者だ。

 

そんなプライドが彼にはあった。

自己肯定感や承認欲求の強さが裏目に出てしまったのである。

 

「人からよく見られたい」、「すごい人だと思われたい」というのは誰でも持ち合わせているものだ。

 

ただこれは相当人を苦しめる。

本当はもっと楽に生きたいのに、世間体を気にして劣悪な環境でも我慢をしたりする。

 

私の場合、仕事で体調を崩して休職していたことがある。

昇進という形でグループ会社内で異動になった時のことだ。

 

自分で言うのもあれだが、優秀ではないにしろこれまで大きなミスやトラブルを起こしたことは無く、まじめに勤めてきた自負はある。

 

そこを評価されてか、上の方で「そろそろ彼を昇格させよう」みたいな話になっていたそうだ。

普通に考えればありがたい話である。

 

ところが現実は厳しく、パワハラや過重労働が待っていた。

到底時間内に終わらない仕事量や毎日30分以上の説教。

 

「論外や!」

「話にならん!」

「前の会社では良かったかもしれへんけど、ウチでは通用せえへんで!」

 

日々こんな言葉を浴びせられた。

ここで踏ん張るという選択肢もあっただろう。

 

一応、期待されて上げてもらったわけだし、これから出世していくチャンスもある。

 

しかし私は休職という道を選んだ。

周囲を失望させたかもしれないし、今後の出世も断たれたかもしれない。

 

でもそれで良かった。

この間、著者と同様に引きこもりみたいな生活をしていた。

 

一般的に考えれば、働いていないと冷たい目で見られるかもしれないし、情けないとも思われるかもしれない。

 

だが、この期間は心の底から幸福を感じた。

働かないことがこんなに幸せなことだとは思わなかったし、願わくばこの生活がずっと続いてほしいとさえ思った。

 

自分語りが長くなったが、結局なにが言いたいかというと自分の中の思い込みや承認欲求などを手放してみると、意外と大したことじゃなかったり楽になったりする。

 

間違いなく、幸福は世間体の外にある。

 

 

●挫折した人は誰かを救える人だ

著者は挫折を経験した人だ。

それも、何かに挑戦しての挫折ではなく、不運によるものだ。

 

しかし、紆余曲折ありながらも芸人としてブレイクも果たした。

まあ、一発屋の部類に入るかもしれないけど。

 

こうした経験が人を救えることができると私は思う。

今は辛くても、それを発信することで誰かの役に立てるかもと考えるとなんだかやる気も出てくる。

 

最後に彼の言葉でとても共感したものを紹介しておこう。

無駄や失敗に塗れた日々を過ごす人間も少なくない。

そんな人間が、ただ生きていても、責められることがない社会・・・・・

それこそが正常だと僕は思うのだ。

 

名言である。