一匹狼になりたくて

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頂点を目指した男の物語 「幻庵」が最高に面白すぎる

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幻庵(上・下) 百田尚樹【著】

 

 今回は私がこれまでに読んだ小説の中で、最高に面白かった作品を紹介したい。

それが百田尚樹氏の「幻庵」である。

 

この小説は囲碁をテーマとした物語だ。

そしてタイトルにもなっている「幻庵」というのは、江戸時代に実在した囲碁棋士である。

 

そんな彼の波乱に満ちた生涯が見事に描かれている。

 

 

 ●そもそも囲碁ってなに?

私は大学時代に本格的に囲碁を始めた。

そして現在でも続けている。

 

それを聞くとこんなことをよく言われる。

囲碁って黒と白の石を交互に盤に並べるやつだよね?

陣地を取り合うゲームだよね?

相手の石を囲ったら取れるんだよね?

などなど・・・

その通りである。どれも間違ってはいない。

もちろんそれには読みや戦術、構想力、定石と言った技術が必要となるが詳しいことは割愛する。

 

つまるところ、そういう競技が題材となっていると思ってもらいたい。

 

 

●マニアックな「古碁」の世界

そして、この囲碁には古碁(こご)というものが存在する。

古碁は読んで字のごとく古い碁である。

 

ではどのくらい古いのかと言えば、明確な定義があるわけではないのだが大体江戸時代から明治時代を指す。

そしてそれは日本の囲碁のレベルが爆発的に向上した時代でもある。

 

この期間に多くの名手たちが誕生した。

小説の主人公である幻庵もその一人である。

 

他に有名な棋士を挙げるとするならば、ヒカルの碁で脚光を浴びた本因坊秀策もいる。

幻庵と秀策の対局もあり名勝負を繰り広げた。

 

すなわち、この小説は古碁の世界で展開される。

それは様々な名局、逸話、エピソードに彩られ壮大なスケールなのである。

 

 

●幻庵とはどのような人物なのか?

さて、主人公である幻庵とはどのような人物なのだろうか。

まず、「幻庵」という名前が何なのかよく分からない。

 

正式に書くなら井上幻庵因碩(いのうえげんなんいんせき)

 「苗字普通なのに名前独特過ぎない?」

そう思われるかもしれない。

私もそう思う。

名前の由来は私もよく分からない。

 

しかし、この「井上」という苗字について説明したい。

江戸時代には本因坊井上家安井家林家の四家の家元が存在した。

どこかの家に属し、そこの当主になればその苗字を名乗ることができるのである。

つまり幻庵は井上家の当主だったわけだ。

そして井上家では「井上○○因碩」と名乗るようになっており、幻庵は十一世・井上因碩である。

しかし、そこに辿り着くまで何度か名前が変わっており、幻庵は隠居しての名前。

 

次に幻庵の人物像である。

「豪快で野心に取りつかれた男」というのが私のイメージだ。

その野心を掻き立てたのが名人碁所

つまり名人の称号である 。

最高権威であり、当代最強棋士の証ともいえる。

 

ここを目指し幻庵は修業に励む。

その描写も本作の見所の一つである。

この常軌を逸した野心が日本囲碁史に残るエピソードを生むことになる。

 

また、棋風(スポーツで言えばプレースタイルみたいなもの)も魅力的である。

とにかく豪快でスケールの大きな打ち回しで、戦いに持ち込んでいく。

その読みの深さに何度も驚嘆したのもだ。

 

そんな人物が主人公なのだから面白いに決まっている。

 

 

●対局の描写が素晴らしい

ここも本作の特筆すべき点である。

対局の臨場感がとにかくリアル。

囲碁をやっている人なら共感できる部分が多いはずだ。

 

「あの名局をこう描くか!」といった感じに想像力を掻き立ててくれる。

そしていつも私はこの小説を読むと「囲碁打ちて~」とか「もっと強くなりたい」と思わせてくれるのだ。

 

それだけ、囲碁をやっている人にはたまらない作品だと言える。

 

 

●でも万人受けはしない・・・

これは私が今までに読んだ小説で最高のものだと思っている。

ただ残念なことに万人受けはしない。

 

なぜなら専門用語がバンバン飛び出してくるからだ。

やったことのない人にはなんのこっちゃさっぱり分からない。

それに古碁に関する予備知識も必要だ。

 

もちろん著者も承知のうえだと思う。

だからこそ、この物語を書いてくれたことに感謝したい。

万人受けしないからこそ、私は素晴らしいと考えている。